“Wunderkammer”とは、15世紀から18世紀の間にヨーロッパでつくられたという驚異の部屋、珍品陳列室に着想を得た、unkno雲の小作品集のタイトルである。驚異の部屋は、博物館の源流とも言われている。なぜか惹かれるもの、嫌悪してしまうもの、似ているもの、違うところ、違和感。分類し、関連付け、名付け直し、名前を呼ぶとそこに在ることになる。そうやって新しい世界を構築し、夢の中で人は住む。 (2020年3月21日に東寺の間MAという文化スペースにおいてリリース記念のパフォーマンスが決行された日、読み上げた『記憶標本のある部屋』というテクストは、いつ書いたかわからないメモ書きです。篠田) ----- 記憶標本のある部屋 “どこか似ている”ということは、人の感情を瞬時に揺さぶる。揺さぶられた結果、ポロっと胸からコボれ落ちたものを拾って、鍵穴に嵌めてみるとギィッと開いたのは、標本が所狭しと並ぶ、奇妙な部屋のようなところだ。 この部屋はなんだ? 不意に、ぐいっと胸に刺さる物事があったとき、それらは瞬間凍結され、標本になって押し込められてアーカイヴされていく。そういう倉庫部屋を、生まれた時に人は誰しも与えられるんじゃないだろうか。その部屋には、死ぬまで物が増え続けていく。 そしてある時、急に思い出したように、昔に収蔵したものの触り心地や匂いや音を求めて、そのものを引っ張り出したりする。歳を重ねると今眼前で起こっていることと、アーカイヴの中の収蔵品に似ているものが増えていって、その度に、この倉庫部屋に入ることになるのだ。 ◎部屋の特徴 ・過去の体験のうち、引っかかりのあった言葉やシーン、関連するものがガラス瓶に入っている ・部屋を開けるたびに標本の配置や大きさは変わる ・あるとき急に、今まで見つからなかったものが見つかったりする ・たぶん、我慢、違和感、切なさ、ショックに関係のあるものが多く収蔵される ・置かれているものは、強烈な記憶に紐づくアイテムや言葉なんだと思う ・置かれているイメージは正確だとは限らず、不正確や虚実があるかもしれない。 ・記録ではなく、記憶である ・日常的にここに収蔵されているものが無意識に、意識に組みこまれている ・標本は、瞬間凍結されている ・標本にはどこまでも近づけるが、触れることはできない ・だんだんと埃をかぶり、あるいは欠損して、かたちを失っていくが、それを止めることはできない ・解像度もどんどん下がっていくし、だんだん歪んできてしまって正確性を欠いてくる
Wunderkammer (記憶標本のある部屋 ) https://youtu.be/n0nKYkO3Q6A